「狩りの時代」本を買い取りました。
狩りの時代
津島 佑子
買取価格 532円
著者が12歳の時に亡くなったダウン症の兄の事、ヒトラー・ユーゲントの来日などを絡めた絶筆長編小説。
今年亡くなった津島佑子の長女である津島香以さんが著者のパソコンに残っていた原稿を出版した最後の作品です。
迫力のある作品でしたが、一気読み。
昭和を描こうとすれば必ず戦争の話は登場するのですが、この作品はもう少し違った角度から戦争を切り込んでいきます。ドイツでは未だナチスとユダヤ人の話はTVでは禁止であると聞いたことがあります。
ヒトラー・ユーゲントは選ばれた若い人種でできたヒトラーの青年隊のようなものですが、戦争前に日本に来ていたという話はこの本を読むまで知りませんでした。
主人公の叔母と叔父たちがまだ子供だった頃、ヒトラー・ユーゲントの乗る列車が近くの駅を通過することを新聞で知り、面白半分に見物しにいきます。通過するはずだった列車は駅に停車し、子供達に一生忘れないような事件が起きます。やがて子供達は大きくなりそれぞれの人生を歩んでゆくのですが、何かのおりにこの話は必ず出てきます。
それがどういう事であったのかは最後の方まで主人公にはわからないまま時間が経っていきます。
大家族を中心とした展開と時代背景で北杜夫氏の「楡家の人々」を思い出しました。
最後の方で物理学者である永一郎の病床でのうつつの演説は今の日本を危惧する内容です。
演説途中で絶筆となっているので著者が最後にどのような事を書きたかったかはわかりませんが小説としては充分に完成された作品だと思い読み終えました。
素晴らしい書き手がまた一人いなくなってしまったのだな…と思う事しきりです。