「ゆらぐ玉の緒」本を買い取りました。
ゆらぐ玉の緒
古井 由吉
買取価格 449円
読み始めた時期と作品の季節が同時期だったので、冬から春への季節と楽しみながら読みました。
タイトルにある「玉の緒」とは、玉を貫き通した細紐、魂をつなぐ緒の意味から命の事。
百人一首にも式子内親王の「玉の緒よ絶えれば絶えね ながらへば忍ことの弱りもぞする」というのがあります。
この場合は命で、私の命よ絶えるなら絶えてしまえ、このまま長く生きていれば心に秘めた恋がバレてしまうからというような意味のようです。
そして「ゆらぐ玉の緒」です。
引用されているのは「かげろふや塚より外に住むばかり」(内藤丈艸)
本書より
…住むという言葉は重い、生きるというも重い…我身をかえりみれば、住む心はしかと身についているのだろうか、と疑いが動く。
誰にでも公平に時はながれます、生活や仕事に追われているうちに歳もとり、病気の一つや二つも抱えたりします。それでも生活は続いていきます、そんな時間の隙間に自分は何故ここにいるのだろう?という心持ちがよぎる事があります。一瞬のことなので特にそれを深く考えることはないのですが、知っている近所で迷うような妙な心持ちになります。著者同様に疑いの気持ちになるのはそんな時です。
8つの短編からなる本書ですが、どれも根底でつながっていて、ふとした折に記憶の隅から立ち上がってくる空襲の記憶、病院の記憶、友人の記憶。
1文字1文字を追うように書かれた年齢を重ねた著者ならではの作品。
読み手としてもゆっくりじっくりと堪能した一冊となりました。
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