「記憶の海辺 一つの同時代史」本を買い取りました。
買取価格 777円
著者10歳のときの朝鮮戦争から、カフカ訳を終えた60歳までをたどっている。おぼつかない自分の人生の軌跡をたどって、何を実証しようとしたのだろう。念願としたのは私的な記録を通した時代とのかかわりだった」著者あとがきより
子供の頃に近所の呉服屋さんからの「カルタ」の誘いに出かけていく話、思っていたカルタとはまるで違ったものであって先生の珍訳付き。南鳥島は鳥だけがギッシリいる島だと思っていた子供時代。
オーストリア政府奨学金の制度でウィーンに滞在した頃の話、立ち見席でのオペラ観劇の日々。
そして最近話題の絶望先生フランツ・カフカとの出会い。
カフカの編集者マックス・ブロート氏の死去からカフカ小説を全訳するまでの6年に及ぶ日々。
文学や翻訳の話の他にも山登りの話まで。3部に分けて書かれたものはその時に起きた政治的な事や様々な世の中の事を取り混ぜて時系列になっています。
終盤には夫人の話と当人の話。余計なものを一切持たないお二人の思い違いと、お互いの言い分が楽しい掛け合いになっています。庭に訪れる小鳥のための水桶を洗うのが仕事と心得ている池内先生と、不器用で洗い方がぞんざいだからとこっそり洗い直している夫人の話などクスっと笑ってしまうような話とか。
タクシーは運転手つきの自家用車、全国の旅館は我が家の別荘、固定資産税もかからない…何とユニークな奥様でしょうか。テレビもケータイもパソコンも持たない生活を夫人は「モノを持たないことこそ最高のゼイタク」と語っています。
一日の終わりののんびりした時間にゆっくり開いて欲しい一冊です。